【まめやのものづくりに迫る・後編】~手描き豆箱の生みの親・中久美子(なかくみこ)さんの絵描きへの思い~
2022年4月11日更新
前後編にわたってご紹介しております、まめや金澤萬久の手描き豆箱という「ものづくり」。
本日の後編では、その生みの親である中久美子さんの絵柄のデザイン、またその絵付けでの思いやお話をお届けしてまいります。
■中久美子さんとの10年以上にわたるご縁。
中さんは、萬久創業者である当社の代表取締役会長 本昌康(もとまさやす)の高校時代のご友人。ご主人で九谷焼作家の中憲一(なかけんいち)さんのアシスタントをされる傍ら、まめや金澤萬久の豆箱のデザインを手掛けるデザイナーでありながら、その絵付けを手掛ける九谷の里の皆さまの指揮を取られている、いわば手描き豆箱の社長のようなお方です。
手描き豆箱のはじまりは、まだまめや金澤萬久が創業して間もないころに、創業者が遊び半分に豆型容器に絵柄を描いてほしいと依頼したのがきっかけ。それはまもなく卯年を迎える年の暮れでしたので、その時描いていただいたはじめての絵柄は、いまでも不動の人気を誇る「うさぎ」の絵柄だったのです。
つまり手描き豆箱が生まれてから今年で約12年、干支が1周するほどの長い期間がたちました。中さんにはその間様々な絵柄を生み出していただき、まめや金澤萬久の魅力のひとつを担っていただいています。
■絵柄のデザインに込めた創作意欲と、芸術家としての思い。中さんのお話を伺ってきました。【対話インタビュー】
――― 豆箱の絵柄は、基本的に中さんに描写するモノ、構図といった具体的なデザイン全てをお任せしています。それらを考えていく中でこだわりのようなものはありますか?
中さん:こだわり、というのは特にありません。その時の自由な感性で描いています。身近に花とか草とかいっぱいありますから、「これかわいい」と思ったら描く。基本的にそれらが咲く時期、旬の時期にはその季節のものは描き終わっているから、「あのときあれが咲いていたな」と記録しておいて次の年に描いたりすることも。
中さん:でも、突然描きたくなるものもあるし、記録しただけ、というものもあったりします。本当にその時の自由な気持ちで描いています。暖かい気持ちだと黄色い花が描きたいし。 だから、そんなにルールやポリシーはありませんね。
――― 絵柄にはその時の中さんの気分や感情といった感性的なものがあらわれているんですね。
中さん:そうかもしれないですね。おかげさまで豊かな自然の中にいるから、しゃれた花は描けないけど、普通の、例えばお客様が懐かしいと思われる花だったりとか、「そういえば小さい時にこんなのいっぱい咲いてたよね」と思われる花だったりとかは身近にあるから描きやすいですね。
中さん:ただその思いが溢れていっぱいになってこの中(豆箱)に収まらないことがあって。いっぱい描きたすぎて、この中に全部入れるというのは難しい。それがデザインなんだろうと思いますけどね。 頭の中には描きたいものがいっぱいあるんですけど、構図にしろ色合いにしろ、その季節の他の絵柄とのバランスがあるので、そういうのはデザインとしてとても重要。だけど、基本的には描きたいものを描かせてもらっていますね。
――― 確かに、絵柄には中さんの自由で素敵なお人柄が表れていますね。
中さん:できるだけみんなが見てわかるものを描きたいと思ってはいるんですけど、身近に溢れる植物という植物がもう好きすぎて。なんか訳の分からない、他の方からしたら「それはただの草だ!」というものも描きたくなったりもしますから、それはちょっと気をつけなきゃと思いますけどね。
――― 好きなものへの溢れる思いがそのまま創作意欲につながっているんですね。
続いての質問なのですが、九谷焼の焼き物と紙製の豆箱では素材や形、大きさとあらゆる面で異なることが多いと思います。その中で、デザインや絵付けの面で気をつけようと思われることはありますか?
中さん:できるだけ色数を少なくしようとはしていますね。つい、いっぱい色をつかっていろいろ描いてしまいそうになるのですが。
中さん:例えば干支の絵柄で装飾の梅や松といったものは、自分の中の正月の飾り物のルールとして特別たくさん描いているんですけど、普通の絵柄、季節のお花といったものは、わかりやすく色数を少なくシンプルに。あんまり丁寧に描くと、お客様の目からみて「いや、わたしはこんな感じじゃないわ」と思う人もいるじゃないですか。だから単純な絵ほどお客様は気に入っていただけるんじゃないか、と思って。自分の思うように解釈してくれる、幅広く。
中さん:例えば葉っぱ1枚にしても、ここの葉脈はこんな感じで、って細かく描いてしまうと、これは違う、と思う人もいるわけで。だったら葉脈は描かなければいい。解釈を広げるために「省く」ということを考えていますね。自分としては自分の好きなものをいっぱい描きたいけど、あえて描かないようにしています。
――― お客様の個々の解釈を広げる、というのは本当に素敵ですね。まさに芸術という感じで。
中さん:そう、お花好きな人って、例えば他の絵付けをされる職人さんもそうだけど、私はパンジー描いてほしいと言ったのが、その職人さんはこの形はパンジーじゃない、これはビオラっていう種類だって。解釈が違うのね。それと同じで、お客様もこれは違う色だ、家の庭にある花はこんな形じゃない、とかこだわられるから、花好きな人は。だからできるだけ細かく描かないようにしてます。
――― あとはお客様の想像と解釈に任せます、という感じなのですね。
好きなもの、描きたいものを描きたいように、しかしその中でもお客様がそれぞれに楽しめる要素も残す。豆箱が長らくお客様に愛される理由が、またひとつわかった気がしました。中さん、本日は本当にありがとうございました!
■「まめやのものづくり」に触れて。
さて、今回は前後編にわけてまめや金澤萬久の「手描き豆箱」について色々とお届けしてまいりましたがいかがでしたか?
この記事で少しでも「手描き豆箱」に興味を持って、また実際に商品に触れていただけたら幸いです。
今後も様々な「まめやのものづくり」にスポットを当てて、商品の物語、魅力を皆さまにお届けしていきたいと思っております。
また次回の更新も楽しみにお待ちくださいね。